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――A.D.2218 月
「来るぞっ! 戦闘員は各個に配置に付けっ!」 警報が鳴り響き、明かりの色が変わった。 ふだんは静かな基地が喧騒に包まれる。 「早くしろっ、格納庫だ!!」 待機していた休憩ルームから珈琲の紙コップを投げ捨てると、佐々葉子はそのま ま格納庫へ駆け出した。通路で同期を見つけてそう怒鳴る。 何が起こったのか!? 遊星爆弾か? 『艦載機隊に告ぐ――艦載機隊に告ぐ。全機発進準備。全機発進準備』 全機とはまた大きな――。 「太陽系軌道に大型戦艦。ただいま木星航路を抜け火星に近づいている。 月基地、地球、ただちに発進し、なるべく遠くで迎撃せよ。 繰り返す、なるべく遠くで迎撃せよ――」 「全機、発進準備完了!」 隊長の土居。古武士風の実年。 「第1班から3班は隊長機に続けっ。第4班は180度に展開、副官機に続け。 第5班は基地を守り、月上空で待機っ!」 30機*が勇躍してエンジンを吹かせ、ハンガーから飛び出していく様は迫力が ある。 実戦だ――そんな想いがどこからか沸きあがり、ずん、と胸を突いた。 駆けながらヘルメットを受け取り、機体に飛び乗る。 整備員と管制の声が響き、秒ごとに発着場へ押し出され、わずか数秒の間を 置いて次々とR21型戦闘機は空へ飛び出していった。 「第3班、行くぞっ。続けっ!!」 初陣である――だが、それも分隊長として。いきなりの。 これまでは酒井の後に続いて飛んでいればよかったが――だが隊長・土居も ベテランだ。 「佐々隊っ、迎撃するぞ、続け」 「了解っ。――各個V隊形で追え」 佐々機を先頭に、夜空を駆る雁の群れのようなV字形を取る。互いの距離と、 高度、そして三次元の上も下もない宇宙空間で距離感を見誤らないようにするた めのフォーメーション。 だがそれも光速に近い速度で移動する機と戦闘空間では、データと勘が頼りだ。 (――落ち着け……シミュレーションで何度もやった。同じだ……落ち着け) 佐々葉子は、表面、落ち着いている。 もともと声が高くない、それでも少々上ずり気味な自覚はあったので、腹に力を 入れ、足をふんばって武者震いと興奮に耐えた。 ――呑まれてもいけない。だが、興奮しすぎてもいけない。ましてや、指揮官の 1人。 敵は、物凄いスピードで火星から月へ飛び退ってきた。 「惑星間航行速度だぜ…」 誰かがつぶやく。 そして、いきなり戦闘が展開された。 「!」 始まってしまうと、考える暇などない。 自分がどこにいるのか。動いているという自覚もできない。 光点から光点へ――そして気づいた時には炎に包まれているのだろう。 その瞬間まで、意識を開き、五感をフル稼動させて、見据えるしかない。あとは、 反射だった。 敵が近づき、空中戦を展開する距離になれば、かえって楽だといえた。 大気圏内と異なり、視認で距離を測るのは難しい。――自分の感覚を信じなけ ればならなかったが、信じすぎてもいけないのだ。 (あぁっ!) 混乱しそうになる――だが。落ち着け。もはや何十時間もシミュレーション上は 飛んだはずだ。月にも、宇宙空間にも慣れ、この機体も、もはや手足のように 操れる。 ――しかし、火力とスピードの不足はいかんともし難く、佐々はコンマ数秒遅れて ついてくる左翼の感覚に、多少の焦りを感じていた。 (……照準が、ズレる!!) 照準器の焦点が少々甘いのだ。機によって個体差がある。もちろんおのおの補正 したりマイナーなカスタマイズが加えられていたが、佐々機はそれを直そうとする と歪みが出る。機は選べたがこの参番機は何度も孔が空いた所為か、装甲の強 度があるのが気に入っていた。スピードは…火力は別として個性だからっ! ――また1機、何とか墜とした。…佐々はそれを選んで乗っているわけで、だか ら、それは自分の選択であるともいえ――(文句言う筋合いじゃないよねっ)、私。 と自分突っ込みを入れてしまう。 ――神経も張り巡らし続けることは不可能だ。 突然、戦闘フィールドの中に飛び出した感覚があった。 目の前を敵機が横切ったのだ。 「小林っ!」 15番機が落ちるように横切った。片翼のエンジンが火を吹いている。 ――助ける術はない。 空母が共にあるのなら、そこまでたどり着ければ。 闘いの真ん中でなければ、牽引ロープを2機でかませれば。 だが、ひっきりなしに敵襲が襲い、それを叩き落し逃れるだけで精一杯だった。 「佐々っ、油断するなっ」 気づけば土居について飛んでいた。2機で並び、小林を撃った1機は次の瞬間に 撃ち落していたが、ほかに2機――初陣にしてはでき過ぎの成果でもある。 「佐々、深追いするな――」 「しかし、隊長……」 任務は、“月基地に近づけるな――見せるな”そうである。 基地からの砲撃はその位置を明らかにする。だから、艦載機隊“のみ”で叩けと。 そして彼らの活躍は目覚しく、少なくとも、壊滅的な打撃を蒙ることなく、宇宙空 間は静寂を取り戻した。 ――せめて戦艦の1隻でもあれば。相手の資料も欲しかったが、ダメとみると自 爆してしまう相手ばかりで、その片鱗をもつかませない。科学力も相当に上だろ うと想像されたが、徹底的に訓練されている軍人の部隊だろうということも想像 された。 「お帰り、大活躍だったな――」 整備兵に声をかけられ、ヘルメットを取ると、先に戻っていた都と津島が迎えて くれた。 (あ――) 敬礼し、ひらりと飛び降りようとしたところ、足がフラついて無様に落ちる。 笑いながら助け起こしてくれた同期は、「佐々でもドジることあるんだな」と 言った。 「よくやったな」 3人、体を起こして機体から離れようとすると、目の前に、隊長・土居の姿が あった。 はっと敬礼する。 「――初陣で4機か、女の身でたいしたものだ」 (女の身、は余計よ――)内心思うが、もはやそういうことを言う気も失せてい るこの基地である。土居は実力主義で、実直な士官だが、時折こういう物言い をした。 「仲間を――失いました」 「生きる者もあれば、死ぬ者もある――あとで、遺品わけをするから。部屋へ、 来い」 3人、顔を見合わせて。 帰ってこなかったのは3人――小林と、先任の2人。これでも犠牲は少ない方 だっただろうか。そして、月基地は役目を果たせたのだろうか? |
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