――A.D.2218 月
「総員、整列――っ! 敬礼――っ、倣えっ!!」 曹長の声がし、銃剣を持った陸兵たちがざっと足音を立てるようにして並ぶ。 「飛行科出身、月基地配属の新人、12名。揃いましたっ!」 同僚の酒井亮輔が大きな声できびきびと報告し、佐々葉子たちこの日配属され た月基地戦闘機隊員たちは、三列横隊で整列した。 肩にムチを構え、ねめつけるように列の前を行き来しながら、軍曹らしき男が一人 一人を見透かすように前を往復する。――その間、姿勢を崩すことは許されない わけだ。 どこでもある初歩的なイジメだな――訓練学校でも。 (ここも、そうか) 最前列、中央に並んでいた佐々葉子は、内心そう思いつつそ知らぬ顔をして前を 見続けた。視線を逸らせたり顔を動かしたりすれば、すかさず拳固が飛んでくるか 目をつけられるだろう。 「ほぉ――女か」 来たよ、と思う。いまさらこの時代、 女性兵士なんて珍しくもないだろうに。 確かに戦闘機隊には珍しいけどね――それほどに選ばれた面々である、今の 世でも。 そんな想いが顔に表れただろうか。無表情を装ったつもりだったが。 「――なんか言いたそうだな」 手に持った棒で、とん、と肩をつかれたが、ここで身動きしてはいけないのは 経験上周知のことだ。 ふん。 佐々が見返さないので、それ以上は人前でマズいと思ったのか、そいつは隣に 目を向けた。 「――お前が、今期のトップか」 黙ったまま敬礼し続けている酒井に、「返事をせんかぁ! 名前っ」 班を統括する者は新米の名簿くらいは軍曹なら当然持っているはずだ。だが。 「――はいっ。防衛軍少年宇宙戦士訓練学校第三期生飛行科卒、酒井亮輔 ですっ!」 「…よいお返事だな。第三期か……で、お前が首席?」 「はっ」 ち、と声に舌打ちが混じったように思った。 「――こいつが、次席だってな。女も強くなったもんだ」 こいつはセクハラ野郎だ、気をつけなければいけないと頭の中の警報が鳴る。 これからここで働く以上は、上官なのだろう。・・・しかし、階級章を見ても戦 闘機隊員ではなさそうだが…。 先任尉官らしき者たちが、てきぱきと並んでドームへ入ってきた。そして兵士 たちは整列して、その基地の司令官を迎える。 「敬礼――直れっ! 月基地、総司令殿、到着」 隻眼の司令官が壇上に上がり、一堂を見下ろした。 新人たちの横のブロックに先任らしき隊員たちも列を作る。…だが20名もいた だろうか? 少ないのではないか? ――佐々の頭を微かに過ぎたのはそういう疑問。 「ようこそ。第三期飛行隊の諸君。私が月基地司令の片岡賛だ。――謎の 敵はいよいよ地球近辺に近付いてきており、冥王星や土星では戦いが続いて いる。遊星爆弾も頻度を増した。――われわれの使命は、この月の絶対防衛圏を 守り、地球への被害を少しでも減らすこと。そして時には戦いに撃って出、敵を 倒すこと。そして、もう一つ。次の世代を受け継ぐ者たちを育てることだ」 簡潔な訓示。力みも、自分を大きく見せようという様子もない。 ――この隻眼の司令は、おそらく前線に出、そうしてあのような体になったのだろ う。足も義足のようで、片足を少し引きずっているのがわかった。 「我々は、戦い――守るためにここにいる」 司令は言葉を切って新人たちを見回した。 「これまで、受け取ってきたものを実践で十分生かしてほしい。諦めることなく この地を天を守り、戦うのだ。――そのためには、自らの命も大切にすることだ。 命は己れだけのものではない。ここまで育てた4年間は、地球のための4年間で もあったはずだ。自覚し、精進してほしい。――期待している、戦力として」 一人一人を見回すようにそう告げると片岡は壇上を下りた。 |
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