そら 駆ける うお


(1) (2) (3) (4) (5)

――ブラックタイガー隊、愛と誇りと。
(1)
星の海の中に、一点のシミのように黒い空間がある。
――母なるふね、ヤマトよ――



 「右反転、180度! ヤマト本艦へ向かえ。敵戦闘機隊を迎撃せよ!」
耳管にじかに伝わる戦闘機隊隊長・加藤三郎の声が、ガンと頭蓋骨を打
った。
 右舷から発進し、敵右翼の初動攻撃を終えた10機は、弾道から離脱し
た。上昇していた各機は、反転するとヤマト本艦へと向き直る。背後か
らの敵機の重圧は、ない。私たちの第一波攻撃と、主砲により、かなり
のダメージを受けたはずだ。
 宇宙での戦闘機戦は、バランスを失うと取り返しのつかないことにな
る。上下のない世界だが、その感覚をつかみ、またそれに拘束されずに、
しかも相手に対して「上」を取ることが絶対なのだ。それは正確には惑
星と惑星の軸線上を基準にして計算されたが、戦闘機乗りにとっては、
自分のその“感覚”だけが頼りになるすべてだった。
 加藤機はすでに上昇して先頭に立っていた。それに続く。
 左翼を守る佐々機は、深入りしていたための遅れを取り戻し、ぐんぐ
んと追いついていった。

 視認できるほどに近づいたヤマトは、爆撃を受けたその明かりで時折、
星のように輝いている。ヤマトの暗い色調は、ふだんならまるでブラッ
クホールのように沈んでいるのだ。閃光は彼女の輪郭をくっきり浮き立
たせてみせた。
 「第二艦橋、被弾していますっ!」
右翼に展開している工藤機から加藤に告げる声。
「第一砲塔、損傷っ!」

「各自、散開して迎撃っ!」
 山本副官の声が響く。佐々は山本機に続いてヤマトの左翼へ突っ込ん
でいった。
 「佐々っ! 出過ぎるなっ。副砲に巻き込まれるぞっ」
(言われなくても…)「わかってますっ」と言うと同時に操縦桿を引いた。
 ヤマトの舷側から発射された光芒が、背後に残った艦を襲う。
爆発の重圧だけが伝わってき、背後の宇宙空間は沈黙に満ちた。振り返
る暇もなければ、必要もない。敵分隊は壊滅したのだ。…あとは、ヤマト
に群がるハエを追い払えばよい。

 急旋回して、ヤマトを迂回すると、母艦後方の敵戦闘機部隊を狙った。
(慣れないんだよな…これ)
 艦載機戦において、母艦を失うことは最も大きなリスクだ。なにがあ
っても、艦だけは守らなくてはならない。
ヤマトから発進してきた12機と合流し、急速にブラックタイガー隊は敵
艦載機へ迫っていった。
「帰投っ!」
加藤の声が響き、波動砲がチリまで払拭してしまった何もない空間を飛
んだ。
 ヤマトが待っている。
 「ブラックタイガー隊、欠損ありませんっ!」三番隊長、岡崎の声が
響く。
「ようしっ、ヤマトへ向かえ」
加藤機に続いて、32機のブラックタイガーは一路母艦を目指した。


 大きな作戦ではなかった。だが気を抜いていい戦いなど、ない。全機
無事――まずは万歳だ。
 格納庫に自分にあてがわれた22番機を収容し、整備班に渡すと、 佐々ささ
葉子ようこ はホッとして狭い自室に戻り、ブーツを脱いだ。
 「あ〜、疲れた」ごろりと横になる。
 身体が沈み込むような感覚があって、しばらくは浮遊感が取れない。
上下のバランス、壁の圧迫感…。戦闘機に乗るようになって4年になる
が、未だにこの一種のエアポケット感覚は抜けなかった。
 じっと目を閉じ、耳に集中する。耳管の機能を高めてやると、早く回
復することがあるのだ。中にはヘッドホンで音楽をずっと聴いてるヤツ
もいる…かえってヘンにならないかな、佐々はそう思うのだが。


 疲れた身体を起こして、軽くシャワーを浴びた。シャワーは本来士官
クラス用の設備だが、女性班員の個室には装備されている。もちろん本
当に、軽く……程度しか水を使うことは許されない。蒸気を利用したポ
ット式で、これはヤマトの最新設備の一つである。
手早く済ませると格納庫へ向かった。自機の整備は、最後は自分の手
でやらなければならない…学生時代に教官からさんざ教わったことだ。
もちろんヤマトの整備員には万全の信頼が置けるが、自分で納得しない
ものに乗って外へ出ていけるほどの度胸はない。
 ヤマトの数少ない女性乗組員の一人、佐々ささ 葉子ようこ。勇猛果敢たる戦闘機
乗りである。見かけはクールな美形だが、性格は荒くれ男たちとタメを
はれる。体格もがっちりしているし格闘技でも負けない自信はある。そ
うやって、ここまで来た。
女性は全艦で10数名。ブラックタイガーには佐々のほかもう一人女性
がいるが、“ゴッドマム”と呼ばれている古参の兵で、ほかに技術班と航
海班にも1〜2名ずつの女性班員がいる。多くは生活班と医療班に従事
していた。そのトップは森ユキである。美人で、仕事もデキる女だが、
甘ったるい声となんだかツンと済ました感じがして、佐々は好きになれ
なかった。…荒っぽいブラックタイガー隊員、男にも負けない、そして
男には決して理解できない中を生き延びてきたのだ。
 そして、彼女はブラックタイガー・チームに月面基地から参加したメ
ンバーだった。
宇宙を飛べればよかった。遊星爆弾の攻撃が開始されて3年目、学齢
期に達した佐々は迷わず宇宙戦士訓練学校へ進んだ。もはや地球に残さ
れた残存勢力は多くはなかったが、飛びたいという想いだけで、進んで
きた。
ヤマトに配属されたのは夢のようだった。外へ出ていける……しかも
憎いガミラスに直接対峙することができる……。厳しい時代だけに、訓
練校でも女性の戦闘機乗りはさほど多くはなかったが、佐々は生き残り、
戦闘へ出てきた。…だが、新兵だ。戦場の経験は、ヤマトが初めてだっ
た。

しかしその事情はどのチームも…チームの他の構成員も似たようなも
のだ。戦闘機隊長を務める加藤三郎は、月基地にも名前が聞こえたほど
の猛者だが、卒業したてであることは変わらず、実戦の経験ときてはお
寒いものだった。ましてや艦橋を治めるチーフ連中の若さには驚く。艦
長・沖田十三は信頼に足る武官だが、あとの連中は…? 沖田には乗り
組んでからも艦内放送で声を聞くくらいだが、一度だけ、閲兵式で本物
に会っている。居るだけでオーラを発するような、すさまじい、しかし
穏やかな風貌を持った壮年だった。
 自分たちのトップチーフである戦闘班長は、一つ年下の18歳。頼りな
さそうな坊やで、こんなヤツの後塵を拝するのかと思うと、不安だった。
かと思うと激しやすく、感情的なヒト…というのが第一印象。いずれに
しても、その男についていかなければならない身のこちらとしては、最
悪だ。
 ヤマトの運行や戦闘のたびの操舵を見れば、戦闘班長と同い年だとい
う航海班長の腕前は信頼できると早くからみな見做されていた(機関部から
は評判よくないが)。名前は訓練校時代から聞こえてきている――島大介、
訓練校では戦闘班長と同期でトップを争ったはずだ。コスモタイガー隊
に配属されてもおかしくなかったはずだが、もしかしたら上は、彼を“消
耗”するのをもったいない、と思ったのかもしれない。操舵を任される
ことになった。
「島班長ってステキよ」女性航海班員である、川井里見がうっとりした
目つきでそう言っていたっけ。男どころじゃないだろう、お前……。確
かに年齢の割に落ち着いた、いい男だけど。
 そして、生活班長・森ユキ。通信班長・相原義一。砲術長・南部康雄。
航海班副班長でレーダーを担当する太田も含め皆、18歳。繰上げ卒業し
てヤマトに乗り組んだ……それほどに、人は足りなかったのだ。

←TOPへ   ↓次へ    →目次へ
広告 [PR]ヒートテック  転職支援 わけあり商品 無料 チャットレディ ブログ blog