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総一郎と藤堂が別荘へ戻ったのは、かなり遅くなってからだった。 「麗香、安心しなさい。尾崎くんは軽い脳震盪で意識を失っていただけで、 傷もたいしたことはないそうだよ。私達が帰る頃には気が付いて、お前の ことを心配していたよ」 「そうそう、『石頭で助かった』なんて笑っているんだよ。まいったね」 ふたりの明るい報告に麗香は安堵のため息をもらした。 「脳波の検査などがあるから、その結果が出るまでは入院するそうだ。後遺 症も心配だしね。私達は明日、神奈川へ戻らなければならないが、お前は どうするかね?」 皆が明日帰ってしまうことは判っていた。それぞれが忙しい身なのだから 当然のことだ。 「お父さま、尾崎さんはあたくしのせいで入院されたのですから、あたくしは ここへ残って尾崎さんが戻るまでご一緒します。明日、お見舞いに まいりますわ」 麗香の心は決まっていたのだろう。きっぱりとそう言うと食事の用意を 始めた。 「そうだね。そうしなさい。尾崎くんのご家族にも危険な状態では無いので 心配しないように連絡をしておいたよ。週末にしか来られないと言っておら れたから、そのころにはもう退院するかもしれないね」 「尾崎さんのご家族にもお詫びしなければいけませんわね」 手際よく料理を運ぶ麗香に、昼の狼狽ぶりはもう見られない。ひろみは 手伝いながら 「お蝶夫人、私、お会いできないまま帰ってしまうので今晩のうちにお見 舞いのお手紙を書こうと思うんです。尾崎さんに渡していただけませんか?」 と、麗香に聞いた。 「もちろんお渡しするわ。ひろみ、今日はあたくしの側にいてくれてありがとう。 感謝しているわ」 ようやく笑顔を見せた麗香に、ひろみもほっとして微笑んだ。 ――尾崎さんへ―― なりました。ごめんなさい。 あの事故の時には私も一緒に居たので、とても不安でした。 竜崎理事から、意識も戻り、傷も軽いようだと聞いて、心からほっと しています。 尾崎さんは意識が無かったので、落ちてからのことをご存知ないと思い ますが、あの時のお蝶夫人の様子を思い出すと、今でも私は胸が痛く なってしまいます。 私が別荘へ助けを呼びに行って、現場に戻った時、お蝶夫人は自分の 服の袖で尾崎さんに止血し、尾崎さんを抱きかかえ、尾崎さんの血に まみれて泣いていらっしゃいました。 別荘に戻ってからもずっと、尾崎さんが怪我をしたのは自分のせいだ とか、自分が落ちた方がよかったとかと、何度もご自分を責めていらっ しゃったのです。 それは側で見ていて、とても辛く、痛々しいご様子でした。 お怪我をしている尾崎さんに、こんなことをお願いするのは変ですが、 どうかお蝶夫人を安心させてあげてください。それは尾崎さんにしか できません。 私は先に戻りますが、お蝶夫人は尾崎さんが退院するまでこちらに残る おつもりです。このお手紙もお蝶夫人に渡していただくようにお願いし ました。 尾崎さんがいつもの元気な尾崎さんらしく、 お蝶夫人がいつものやさしいお蝶夫人らしく、笑顔でお会いできる日を 楽しみにしています。 くれぐれも大切になさってください。 1日も早い退院をお祈りしています。 ――岡ひろみ―― |
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