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静かな高原の別荘地。中でも高い木立の葉陰から竜崎家の別荘が見え 隠れしている。 岡の久しぶりの帰国に合わせてパーティーを行うことと、毎朝新聞主催の トーナメントの詳細を打ち合わせるということで、藤堂、尾崎、岡は招待を 受けていた。しかし詳細の方はもっぱら藤堂と竜崎理事がスケジュール調整 のみをすることとなり、手のあいた一行はパーティーの時間まで近辺を散策 してみようと出かけた。 澄み切った空気と、まだ冷たい風。遊歩道の脇には残雪も少し見える。 岡にとっては日本へ帰ってきて皆と会えたことが嬉しく、自分の海外での生 活とテニス環境を話しながらゆっくり歩いていた。 麗香の心は穏やかだった。ひろみの活躍に焦りを感じたり、嫉妬したりした 時もあったが、今となっては昔のこと。ただ素直にひろみの話に耳を傾け、 心が温まるのを感じるのだった。 その時、麗香の帽子がふわりと風にあおられ、枯れ枝に引っかかった。 「あっ!」 帽子をおさえようと手を伸ばした麗香はバランスを崩し、ぐらりと身体が 傾いて、高さ1メートルほどの崖の下に転がり落ちそうになる。 「お蝶さま!」 並んで歩いていた尾崎が麗香の身体を押し上げるようにしてかばったとたん、 尾崎本人が崖から落ちてしまった。 「尾崎さんっ!!」 落ちた高さ自体はたいしたことは無かったのだが、尾崎は体制を立て直す 暇の無いままに、木々をなぎ倒すように落ち、 大きな岩に頭をしたたかに 打って、そのまま意識を失った。 「尾崎さん!?」絶叫と共に麗香は尾崎の元へ駆け下りた。岡もその後へ続く。 尾崎の手には擦り傷があり、足には枝が刺さったのか出血が見て取れた。 しかし、一番ひどかったのは岩にぶつけた左頭部で、傷口が見え、そこから 血が髪を伝ってしたたっている。 「ひろみ! 早くお父さまたちを呼んできて!」 「はいっ!」麗香の厳しい口調にひろみは大急ぎで別荘へ戻っていく。 「尾崎さん! しっかりなさって!」麗香は歯で自分のワンピースの袖を噛み 切ると包帯代わりに尾崎の足に止血を行った。 もう片方の袖は頭の傷に巻きつけたが、出血を少しでもとどめるために 頭の位置を高く保たねばならないと、麗香は渾身の力を込めて尾崎を抱き 起こし、自分の胸に抱え込んだ。 しかし出血の治まる様子は無い。 時間の過ぎるのが果てしなく遅く感じられる。ひろみ達が戻ってきても、ここ から街の病院までは遠い。救急車はすぐ来るだろうか。手遅れになったり しないだろうか。 私をかばったばっかりに、この人のテニス生命に何かあったら―― 次々と悪い想像ばかりが湧いてくる。 こんなにテニスを愛している方が、あの宗方コーチのようにプレイできな い身体になってしまったら!! その想像はとてつもなく恐ろしかった。 尾崎の頭を抱きかかえながら麗香は神に祈っていた。 涙が出て、全身の震えが止まらなかった。 |
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