島大介は中空を漂っていた――。意識もなく、混濁した記憶のまま、 ただ白い風景の中を。どこまでも、いつまでも。まるで時空の中をさま ようように、宇宙を漂っていった。 死の訪れがすぐ迫っていたことを、本人は知ることもなく、まるで自 分が航行してきた艦のように、宇宙果てる渦の向こうまで、ただ一人―― ただ一つの物体となって……。 中空に一つの光があった。 その光は次第に実体を伴い、何もない空間に染み出すように青いポッ ドを浮かび上がらせる。……それは、テレザリアムだった。 青年の体は、光に包まれ、中空に浮いて、消えた――その不思議な館 の中へと。 ぽつりぽつりと、雨が降るように、記憶の断片が降ってきた。 今、意識だけの存在となって、しかしその意識さえ、自分がまだ人間 であると認識できない程度に、曖昧で、白い記憶の彼方へ消えていた。 しかし、だんだんに目覚めはじめると、それはぼんやりした幾重にも 空気を重ねて向こうを見るような、ぼんやりした景色でしかなかった。 島大介は、少しずつ、自分が何者であるかを、思い出し始めていた――。 突然、意識と記憶が蘇った。 (ヤマトは! ――地球は!?) しかし島の体は動かなかった。……体があるのかさえおぼつかない。 ちょうど夢の中で、自分の手足を動かすことがなかなか困難であるように。 視界もぼやけ、目に入るのはただ白と青のぼんやりした空間――害意は 感じなかったが、ただ柔らかな光に満ちた空間だった。 島は指を動かそうと試みた。ちょうど深い眠りの中、金縛りから己を解こ うとする時のように――。しかし、力を入れてもその先にまるで手がないか のように指の感触は戻ってこなかった。目を開けようとしてみるが、首も 動くものではなかった。――いったいオレはどうしてしまったんだ? 死んだのか?…… 体を起こそうとするのを諦め、島はもう一度目をつぶって記憶を辿ろうと した。重く頭や体に残る疲れが、また意識を暗闇に引き戻そうとする。 そのまま島は再び眠りに落ちた。 《しまさん――》 青い服の女性は、かたわらに戻ってくると、頬に生気を取り戻した愛しい 男の姿を見た。 《島さん、蘇ったのね、島さん――》 テレサはそのまま、かたわらに崩れ折るように膝を突き、島のわきに 突っ伏した。 (島さん、良かった、島さん――) 「島……おい、島!」 古代は島のまぶたが確かにぴくぴくと動いたのを見た。頬に少し顔色が 戻ったように思えたが気のせいか。 「ユキ! 島が……島が」 「えぇ! もう大丈夫よ、きっと」ユキも涙を溜めてその姿を見守っている。 「しかし脳波はまた昏睡に戻ってしまいました」佐渡の助手を務め、 現在は島大介の主治医を兼ねている貝塚医師がそう告げた。モニターを チェックし、微細な変化も見逃すまいとする。“コンピュータ”とあだ名される この医師は、なぜか正反対の印象の佐渡の、地球で唯一ともいえる弟子 (…ただし押しかけ)である。自身は防衛軍中央病院に勤めるエリートだ が、今は他の仕事をそっちのけで島大介の集中治療に当たっていた。 テレサが島を古代たちに託して白色彗星へ向かっていって翌日――。 島大介の容態は安定を保ち、回復に向かっていた。ただ、目覚めず、昏々 と眠り続ける。古代もユキも自分たちの怪我を押して島の病棟を訪ねて いた。 (島を失うわけにはいかない――頼む、助かってくれ) 古代の切なる願いは、この悲惨な戦いで失われた多くの命と、そして この男を愛するテレサの願いが込められている。 (島――) 眠り続ける島を、古代は祈るような気持ちで眺めた。 |
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