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お題 2006-No.93「Requiem/鎮魂」
――『宇宙戦艦ヤマト』(Original) ![]() = プロローグ = 壁の外に1人、大きく明り取りに開いたガラスから中庭を眺めていた。 コンサートホールから隣の宴会場へ続く厚い絨毯の上。正装した青年。 アールを描く壁に寄りかかり、窓の外を眺めながらタバコを咥え、所在なげに彼 はたたずんでいた。 「あの、お客様。――楽章の間でしたらお入りいただけますから」 おずおずと制服を着た係員が控えめに“こちらへ”と促し、声をかけるのを、笑っ てやんわりと目線で断った南部康雄は「いいんだ……ありがとう」と。それでも、 くい、と傍らにあった灰皿に、口に咥えたものをなすりつけた。 「――苦手なんでね、歌付きは」小さく口元を歪めて言う。 招待されての今日である。短いコンサートが終了したあと、関係者が集まるレセ プションがあり、そちらの方が大切な付き合いなのは知れたことだ。とはいえ、 著名なコンサートホールの係員にしてみれば、世界的な演奏家が集まるこのコン サートはプラチナチケットでもあり、本日はほぼ満席。それを、その場にいながら 拒否しているこの洗練された青年は解せないものに写っただろう。 するりとそこを去り、階段の方へ行く姿を、その女性は見送った。 いや、歌物が、というわけじゃないな。 小さく舌打ちをするように、南部は口の中でつぶやく。 「歌というよりは――この曲が、というんですかね」 それと知ったらもっと遅れてきたのに――そう言いたいほどに苦い顔になるのは まだ修行が足りないというべきか。 フォーレの「レクイエム」がホール内を写すモニタから小さく聞こえていた。 また無表情に戻り、その曲の想起する想い出が蘇ってくるのに、任せた。 緋の絨毯は足音だけでなく、夕刻の起こすすべての音を吸収していくかのよう だった。宵に傾きはじめた外の明かりに心地よく身を沈めながら (――待ちますか……あと40分) 南部はそう息を吐くと、まためったに吸わないタバコに火をつけ、中空に目を 遣った。 |
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