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――古代家の休日
(1) 2週間ぶりに戻った家の中は、ガランとした空間に思われた。ダーク色の壁に、 低いブラインドの薄いブラウン。シンプルにまとめられた色彩の感覚は、さしずめ空 間デザイナー連中にいわせると「センスが良い」ということになるのだろうか。もちろ ん彼自身の選んだものではない。タングステン・ライトの美しい光が、かえって寒々し 部屋の機能美を際立たせていた。 「・・・」 上着をばさっとイスにかけると、どさりと壁際に出してあった簡易ベッドに腰掛け る。2週間の土星勤務から帰って、彼女の姿がないのがこんなに堪えるとは。そんな トシでもあるまいに。 (こんなことでは…) 自らの決意を自分で確認するはめになろうとは。 突然、バタンっと階下の戸を開け放つ音がして、元気な足音がメゾネットの中へ飛 び込んできた。 「パパっ!」 「!」 (ひとの部屋に入るときはノックを忘れるんじゃないぞ)…あれほどキツく言ってき かせたというのに、この息子はいつもオレの言いつけを守ったためしがない。ただそ れは、ユキに言わせると「パパにだけ、よ。そのくらい貴方が好きなの、この子は」 だそうだが。 小さくて温かい生き物が、進の背中に飛び込んできた。さきほどまでの憂鬱など吹 き飛ぶ気分で、体当たりするように飛び込んできた息子を膝から顔の前へ抱え上げ ると、彼は破顔して歓声を上げた。 「こらっ。いつも言ってるだろう! めっ」 怖い顔を作ろうと思うが無駄だった。守の笑顔は、進にとって百万の薬よりも疲れ を忘れさせてくれる。 ひとしきり父と息子の2週間ぶりの再会を一歩後ろで見守っていた守の母は、トン と息子を抱え下ろした進と目が合うと、しっとりと笑って「お帰りなさい」と言った。 万感の想いで進は答える。 「ただいま」 姿勢よく立った姿は、いつも、会う度に美しいと思う。自分の妻であり、息子の母親 であり、もう結婚して7年も経つというのに。いまだ変わらず時折彼女の前では爪先 立つ想いをすることがあるのだ。……会えない時間の長い夫婦。宇宙船乗りにとっ て、それは当然のことと思い切るしかないし、 宇宙へ出ている時に、だからこそまた 地球を離れ、遠い戦いの空間へ出ていけるのではあるが。 心の底からいとおしさがこみ上げて、古代はユキをその腕に包んだ。「ただいま」 ともう一度耳元に囁くために。 守はすでにリビングへ走り出ていて、「お腹空いたよ! 今日はパパが帰ってきた からご馳走なんでしょ!?」と大ご機嫌だ。「はいはい、今行きますからね」とユキは口 では言うけれどまだ進の側を離れようとはしない。その顔が少し曇るのに、進は気づ かなかった。 「お土産があるよ」 複雑な顔になるのを見透かされないように、古代は言った。 「まぁ、何かしら?」 出来の悪い芝居のように、ユキも答える。 「仕事で行っているのだから、そんなのはいいのに。貴方が最大のお土産なんだか ら、私も、守も…」 目を細めて古代はうなずく。リビングの息子の気配を気にして、すっと短いキスを した。 |