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『ヤマトよ永遠に…』より
「今ごろか?」 ヤマト帰還から5日。古代艦長代理に呼び集められ、次の辞令を受けるためにこ こにいた。 帰路、体調が悪かったなんてのが嘘のように、あっけらかんと島大介がそう言って 「俺も、独身一人暮らしの仲間入りさ」と笑ってみせる。 「なんでいまごろ」 「家から通うのも、なにかと面倒なんだよ――」 ずっと自宅の気楽さもあったが、これを機会に独立することにしたのだ、と 島は言う。 誰かイイ人でも出来たのかとは、島相手に冗談でも言えない面々である。 ここに居る全員が、士官官舎へ入れる身分だ。そこそこの広さと、快適さ、そして 何かというときの利便は、確かに自宅に勝る。 「親御さん、文句言わなかったか。それでなくともほとんど居ないんだし」と太田。 「もう、そんな年でもないさ」――実は、弟には泣かれた。 「まぁ、というわけだからさ、ご近所さんだからな。よろしくな」 相原はガミラス戦の往路に都市の暴動で父親が殺され、その後の1年に身体の 弱っていた母親を亡くして一人暮らし。南部は実家がわずらわしいので訓練学校 時代からずっと。意外なことに両親健在の太田も、マイペースで第1航海の直後 から官舎に住んでいる。島は、ブリッジクルーで唯一の実家暮らしだったのだ。 「島さん、仕事しすぎないでくださいよ」 これは相原。几帳面で、鷹揚な性格の上司の分まで抱え込むだけでなく、何かと 頼りにされる島は、放っておけば納得するまでそれを手放さない。家族がいれば それもなかろうが、切り替えがきかなくなるというデメリットはあるのだ。それは 相原が実感していることでもある。 「お前ほどじゃないよ」 相原も放っておけば、いつまでもメカやパソコンから離れない男なので、人のこと は、確かに言えないのかもしれない。 「よう、揃ってるな」 防衛軍の上位左官の制服を着けた古代が入ってきた。 一斉に敬礼。――昔馴染みの同期同士とはいえ、ここは仕事場である。秘書官の 一人、小澤が付き添う。――長官秘書室の、ユキの後任の男性である。 「辞令」 皆、かしこまって。 「島大介大尉。――地球防衛軍第13独立艦隊指揮艦・宇宙戦艦ヤマト、艦長代理 兼航海長として木星−ガニメデ基地就航。期間は2週間〜16日。目的は資材・資 源の採掘と運搬」 島は、えっと古代を見る。 「南部康雄中尉。――同艦に戦闘時指揮官として同乗。副官として航路を助ける ように」 はいと答えて。 「相原義一中尉。――同艦通信班長として同乗。副官補佐として任務を遂行せよ」 「太田健二郎中尉。――地球防衛軍第8輸送艦『朝風』に副航海士および航路責 任者として乗艦、資材・資源の採掘と運搬で火星−月基地へ就航」 以上だ、と言ってそれぞれの書類を小澤から受け取って各人に渡し、秘書官は部 屋を出ていった。 「というわけだが、皆、よろしくな」 「古代――」。一番驚いただろう、島が言う。 「ヤマトは現在、実質、俺と真田さんに任せられているんだ。――俺は地球を離れ られなくてな――理由はわかるだろ」と仲間同士の表情に戻って、古代は言う。 「真田さんと、ユキと。至急やらなければならないことがある」 防衛ラインの構築、人の手配――そして――ユキに襲い掛かっている、様々な 憶測からのガード……防衛軍としても必要なことだ――そして、査問会議。 「ヤマトを頼んだぞ、島」と。 それに今回の就航目的は輸送艦だ。その専門はむしろ古代より島である。 ちぇ、俺だけ別かよと太田が腐るに。島とお前を同じ艦に乗せておけるほど、 人手は余ってないんでなと古代。――第8艦隊はもともと島が所属していたところ だ。そのかわり、北野をつけてやるからしっかりやれよ、と。北野ってあの北野 ですか、というやり取りがひとしきりあって。 本当は、南部にも残ってもらいたいくらいだが、いくら太陽系内とはいえ、まさか 丸裸でヤマトを送り出すわけにはいかんだろう、と古代は苦笑する。南部も 頼むぞと。 「あぁそれと、島と南部」――と古代が思い出したようにつけ加えた。 「お前たち、この任務の間は、1階級特進だ。」 「は?」「え?」と二人。「−−島は少佐、南部は大尉待遇だからよろしく」。 はぁ? その“待遇”ってなんだよ。 ヤマトみたいな大型艦を預かるんだし、それと全面的に俺の指揮権を委ねるわ けだから。暫定で、悪いなと。まぁ試用期間みたいなものだ、と。 地球の長距離航行艦は激減していた。数隻しかないといっても過言ではない。 ともかく採掘した資材を運び、最低限のものを揃えなければならない。 また、防衛ラインの構築と戦後処理――ヤマトのメンバーはそれぞれの中心にな って働かなければならなかった。 古代と真田は、地球から外をコントロールすることになる。 そしてヤマトは。簡単な整備だけをほどこされて、ともかくその主力として働かざる を得ない。 「半年だ――島。そのあと、オーバーホールと大幅な改造のため、ドッグへ入る」 その間はヤマトを頼むぞと。お前だから、頼めるんだと。 通常なら着艦−退艦した時点で解かれる任が今回はそうでない。ドッグ入りした 時で現在の指揮系統は解除される――それまでヤマトとその乗務員は暫定的に 古代の指揮下にあった。変則的、とはいえ本土を占拠された危機感は、これまで になく重く、大きい。 最前線での戦闘経験があり、指揮能力と実務を備えた人材は、数少ない。ヤマト の乗組員――第一艦橋メンバーが、その一翼を担うのは、当然のことなのだろう。 (古代も変わったな――) 島は思う。 こんな風に、中枢に入り、自ら内部の構築に手を貸すようなやつじゃなかった。 ――その背景に、最も大きいのはユキの存在――離れ離れで戦って勝ち取ったも のが。秘された真理が、憶測を呼び、ヤマトを心良く思わない軍閥や政治機構を 刺激する。 地球を守らなければ――その義務感と、失われていった大切な仲間たちの想いと ――そして何よりもユキを守るために、古代は。真田さんとともに、自ら動くことに したのだろうと思われた。 今この時は。 だから俺は――俺にできることをしよう。 「出発は1週間後だ。それぞれ準備にかかってくれ」 古代はそう言うと、「付き合えなくて悪いな」とさっさと部屋から出ていった。 「そういえば古代さん、今どこに住んでるか知ってます?」 相原が意味深な笑みを浮かべて俺たちを見回す。 「お前、また何かやったのか――」南部が言うに。 「人聞きの悪いこといわないでくださいよ――たまたま官舎が近いんで、よく逢うん ですよ」と悪びれもせず相原が言う。「ユキと一緒に暮らしてるんだろ」と平然と 南部が切り返すに。 「あれ? 皆、知ってたの?」ときょとんと相原。――え、と驚いたのは島大介 一人だ。 えぇまぁ、と相原が返して。 「いろいろあったからなぁ」と太田がしみじみつぶやくのに。 「まぁ官舎ネットワークっつのも侮りがたし、ってとこです」相原が笑って。「島さん も、これから仲良くしましょう」おいおい、それって俺もかよ。 ガミラス戦とヤマトでの1年間は “特殊な経験”だと、気づくまもなく戦後を 過ごした俺たちは、いやおうなくそれと向き合う時間を過ごした。そこへ起こった 白色彗星戦の顛末――その傷も癒えないうちのヤマトでの戦いは、どうしても 家族とも、仲間とも――そして軍の中でさえも、自身と他人との違和感を拭えな いものにしていく。 大切なひとたちを守りたかった―― だがその特殊な経験は、分かち合ったものにしかわかり得ない辛さを包括する。 日々まだ渦巻く想いは、やはり仲間としか分かち合えなくって。 古代が――孤独に己を無くしても仕方なかったあいつが、ユキという相手を得た ことは、誰のためにも良いことだった。少なくとも、自分がそこに居場所が見つけ られるかどうかは別として。 俺たちのためにでも、確かに根を張って幸せを掴むものが居なければ、救われ ないのだから。 「ところで島さん」とまた南部。「引越し、手伝いましょうか」 「どうせ、お前ら、終わった頃来て飲むだけだろうが」 そういった意味ではまったく信用のないやつらに向かって俺は言う。 引越し、といったって。俺たちの引越しなんて、楽なもんさ。10代の半ばからを 訓練校の宿舎で過ごし、卒業を繰り上げてヤマトで1年間。その後も宇宙と地 球を行き来して――住まいといえるほどのものは、地球の上には、ない。しかも 俺は――。 実際、少しの着替えとオーディオセットと書籍とデータの一式。そのくらいで。 思い出の何ものも、誰も残していってはくれなかったから――。 |
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