姉妹

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 ある朝、サーシャは玉座の前にぬかずき、 こうべを深く垂れていた。
姉としてではなく、イスカンダルの女王としてのスターシャにどうしても願い出
る必要があったのだ。
「お願いです。私を大使として地球へ派遣してください」
どのくらい沈黙があっただろうか。
スターシャが静かに「サーシャ…」と声を掛けた。
「14万8千光年の彼方へ、貴女ひとりで行こうと言うの?」
サーシャは目を瞑り、一人残される姉を想う。寄り添い支えあって来た今日まで
の暮らしは、サーシャの人生のすべてだった。優しく微笑む姉の横で、のびのび
と過ごした日々。何をするにも一緒だった、大切な、大切なおねえさま――。
けれども、もう待てない。誰かを待って、当てにしていては間に合わなくなる。
「はい。ここに放射能除去装置があり、イスカンダルは地球を支援すると伝えに
まいります」
「地球人に、ここまで取りに来てもらおうと言うのですね」
それはスターシャも考えていた事であった。こちらから運べないなら、取りに来
てもらうしかない。自分の星を愛し、自分の星の人民を愛し、それを守ろうとす
る勇気があるなら、ここへ来て欲しい。イスカンダルは地球のために支援を惜し
まない。
 サーシャとて、あのホットラインの鳴った日から今日まで、無駄に過ごしてきた
つもりはない。八方手を尽くし、何度もガミラスに忠告をした。その度にデスラー
は「無駄だ。地球は我が手に落ちる運命にある。他の星々もそう思っていると
一番知っているのは、イスカンダル親善大使である君であろう」と薄く笑ってサ
ーシャを見た。
どれほど唇を噛んだことか。
やはり地球へ行きたい。自分のできる限りを尽くしたい。
「おねえさまを残して行くのは心苦しいのですが…」サーシャがそう言った時、
スターシャが玉座から降りて近づき、 かがんでその肩を抱いた。
「もはやこの星には私たちふたりだけ。護衛をつけてやることも出来ません。あ
なたが向かおうとしている場所は、同盟国でも友好国でもない、 戦場の最中さなかなの
ですよ」
姉の腕の中で、妹はその美しい顔を見上げ、にっこりと微笑んだ。
「私は、イスカンダル人として、使命を果たしに行くのです。宇宙の平和を願い、
野望や憎悪を遠ざけることが使命だと、 いにしえの昔から定められているではあり
ませんか。今、この事態を放置したら、私はイスカンダル人としての誇りを失
い、星を去らねばならないでしょう」
スターシャの長いまつげがゆれ、瞳に涙が溢れた。姉妹ふたり、幸せな日は終
わりを告げたのだ。妹がこのイスカンダルの地を再び踏む日が無事にやってく
るだろうか。
 正義感が強く、意思が強く、自分の意見をしっかりと発言できる妹は、どちら
かといえば消極的なスターシャのよき相談相手だった。しかし、だからこそ、
止めたところで諦めるようなサーシャでない事は自分が一番よく知っている。
「コスモクリーナーを製作するにはイスカンダリウムが必要ですし、個人用の機
に積む事は出来ません。ワープ航法データと、波動エンジンの設計図を用意し
ましょう。このカプセルを解析して、地球人に取りに来てもらうしかありません。
どうか…どうか無事に帰ってきて…」
サーシャは姉の背に細い腕を巻きつけるように絡め、わざと明るく微笑んで「お
ねえさま、私デスラーのお嫁さんになるくらいなら、危険な任務につくほうが、
ずっと嬉しいわ」と肩をすくめてウインクして見せた。

姉妹
                
 エアポートに、サーシャ機が用意された。イスカンダル大使としての正装であ
る、鮮やかなピンクのドレスに身を包んだサーシャの表情に迷いは無く、むしろ
晴れ晴れとして明るい。機に乗り込む前に、サーシャは通信カプセルを大事に
胸に抱きかかえ、深く膝を折ってスターシャに礼をする。
「大好きなおねえさま、行って参ります」
「貴女の使命がとどこおりなく果たせますように」
マザータウンの海から潮風が流れ、ふたりの長い金の髪を揺らした。
イスカンダルの陽を浴びて、きらきらと輝く髪をなびかせながら、サーシャは
微笑ほほえみを残して機内へと消える。
「サーシャ…」
あっという間に飛び去り、小さくなってゆく機影を、スターシャは手を振りなが
らいつまでも見詰めていた。
 青く晴れた空の向こうにガミラスがあり、スターシャの涙を潮風が散らして、
その空に舞い上がらせた。
(2006/01/13 校了)

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