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数々の難関を乗り越えて、ヤマトは地球に帰ってきた。 コンタクトラインを通過した時に、相原に頼んでリエとの通信を試みたが、リエは クリニックにも軍病院にも居なかった。 おそらく専門の研究所にいるのか、あるいは死んでしまったのか… ヤマトが間もなく地球に帰艦する事を地球側は知っているのだから、生きていれば リエの耳にも入るだろう。 どちらにしても、予約した日にクリニックに行くしかないと、真田は決心し、 持ち帰った放射能除去装置を地球に設置するための作業にかかりきりになってい る所へ、佐渡酒造がやって来た。 「首尾はどうじゃ? 明日には地球にドック入り出来そうじゃが…」 酒瓶を引きずるようにぶら下げて、長身の真田を見上げている。既に顔は赤くな っており、もうずいぶん飲んでいる事が伺える。 「ええ。問題ないと思いますよ。設計図他はもう地上班に送信してあります」 「そうか。まぁ、よく頑張ったよのぉ。ヤマトも、みんなも、お前さんも」 ぐびりと、瓶ごと酒を一口あおって、お前もどうじゃ? と聞いてくる。 「酒は大好きですが、まだちょっと遠慮しておきますよ。地上に降りたらぜひご一緒 しましょう」 手を休めることなく作業をしている真田に、佐渡は 「明日、ヤマトがドック入りしたら、真っ先にお前さんは降りろ」と言った。 真田は佐渡が酔って冗談を言っているのだと思った。 「無理ですよ。やらなくてはならない事が、まだ山ほどありますからね。下艦する のは、たぶん最後になるでしょう」 「除去装置の事は、地上班に任せておけばよい。お前さんだって、朝倉ドクターが 心配じゃろうて」 真田は手を止め、振り返って佐渡を見た。佐渡は床に座り込み、酒瓶を抱えて 「お前さんの腕で、ヤマトは何度も救われた。それはつまり、朝倉ドクターのおかげ じゃと思わんか。 不義理をするな。もしも…亡くなっておるなら弔ってやらねばならん。 朝倉ドクターも、もう身寄りがおらんのじゃろう? いや、きっと生きておると思うがな。わしのカンはあたると思うておるよ」 佐渡は続けざまに酒をあおっている。 「艦長代理にはお前さんを最優先で、すぐ下艦させるように話しておいた。 たった二日だが、長官から休暇ももぎ取っておいたぞ。 あ、お前さんの荷物の中に、医務室に預かっているスペアを忘れず入れておけ よ。」 佐渡はそれだけ言うと、そのまま床に寝転がっていびきをかき始めた。 「…ありがとうございます。佐渡先生」 真田は、深く深く頭を下げた。 出迎えの大歓声の中、ヤマトはドック入りした。 帰宅に気の逸る若い乗組員が、タラップが降りるのを待ちきれずに、降下口のあ たりにウロウロしているのを真田はさっきから見ている。 佐渡に言われ、古代に急かされて、さっさとこんな所まで押しやられたが、早く リエの無事を確認したいという気持ちと、もう生きていないのだと知る事になる のなら、降りたくないという気持ちがせめぎあって、どうしたものかと戸惑っていた のだった。 しかし、ゆっくりとタラップが下り始めたその時、歓声の中から聞き覚えのある 声が耳に飛び込んできた。 「志朗! 志朗はいる!?」 リエの声だった。リエが生きて、ここまで迎えに来ている! 「タラップを下ろせ! 早くしろ!!」 真田は怒鳴ると同時に、目の前にいた何人かの乗組員の襟首をつかんで、後 ろへ引き倒した。 人ごみをかき分け、まだ下り切っていないタラップを駆けた。 「志朗、お帰りなさい!」大きな声で叫び、大きく手を振るリエがすぐそこに立って いる。 「リエ!! 無事だったか!」 力の限りリエを抱きしめて、「よく生きていた。よく生きていてくれた」と何度も 言った。 「痛いわよ、志朗。まだ病み上がりなんだから、手加減してよね」 リエはうふふと笑って、真田を押しやった。 「もう大丈夫なんだな? 車椅子もいらないのか?」 「ええ。完全勝利よ。まだ完治とは言えないけれど、たぶん死ぬ事はないわね」 にっこりと微笑むリエの瞳は生気に輝いていた。まだまだ痩せてはいるが、こ れから回復していくのなら、問題ないだろう。 もう一度、真田はリエを抱きしめる。「バンザイ!」と叫びたくなる気持ちを押え つけるのに苦労するくらい嬉しかった。 「ほら、後ろ、大変な事になっているわよ。みんな見てるってば!」 リエは窮屈そうにしながら、真田の顔を見上げた。 普段は沈着冷静な男というのが真田の風評で、あまつさえ女嫌いだと思われて いたのに、他の乗組員を押しやったあげくに、見た事も無いほどの猛ダッシュで、 いきなり女性に飛びついたのだから、降下口は大騒ぎになっていた。 ひとめ見ないと後悔するぞと、噂はたちまち艦内に広がり、第一艦橋の乗組員 をはじめ、次々に人が集まってきてしまったのだ。 再び腕の中で、真田を押しやろうとするリエに、 「放って置けよ。どうせ、オクテで堅物の俺が、女に抱きついているって面白が っているんだろう。言いたい奴には言わせておくさ。俺はまだ、もう少し、こうして いる」と、真田は更に腕に力を入れた。リエがここに生きて、立っている事を いつまでも体感していたかった。 「あのね、私だって嫁入り前なんだからね、こういうのはちょっとまずいのよ」 リエは腕からするっとくぐり出て、いたずらっぽく笑う。 「ね、食事に行くでしょう? 私、中華料理が食べたいわ♪」 ああ、そうしようと真田は嬉しそうに笑い、後ろの連中を振り返って見ると、 野次馬の最前列で、まるで湯気でも噴き出しそうなアナライザーがピコピコ言っ ているのが目に入った。 「真田サン、ナンテ事ヲ…! 刺激ガ強スギマス」 「何を生意気な事を言っているんだ、アナライザー。 ユキと佐渡先生に『Dr.朝倉が生還した』と伝えておいてくれ。」 アナライザーは真田とリエの周りをくるくると何回も廻って 「真田サンノ事モ気ニナルケド、ユキサンヘノ、オ使イ、嬉シイナー」とヤマトへ 戻って行った。 「ユキちゃんも一緒に乗船していたの? じゃあ、挨拶して行こうかしら」 リエはヤマトを見上げ、少し目を細めて、懐かしそうな顔を見せた。 「リエの記事を読んで、とても心配していたが、今日、会うのは禁止だ。 女のおしゃべりは長くていかん。さっさとメシを食いに行って、祝杯を上げるぞ」 真田はリエの手を引き、鼻歌交じりに歩き始めた。 「スキップでもしそうね」 「あはははは。そすがにそれは、恥ずかしいな」 「えーっ、抱き合っているところを見られるほうが恥ずかしいと思うけどなぁ」 「別にいかがわしく抱き合っていたわけじゃないだろう?」 「そんな事、どうやって見分けるのよ?」 ふたりの会話が、いずれ青さを取り戻すであろう高い空へ吸い込まれていく。 天空海闊。 古い言葉をひとつ思い出して、真田はすばらしく気持ちがよかった。 (05/02/02推敲) |
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