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ヤマトの出航式は、盛大なパレードと共に行われた。 メインストリートを粛々と進む乗組員を、人々が押し包むように取り囲み、期待 と希望の声を掛けている。紙ふぶきが舞い、群衆の歓声に空気まで震えているよ うだ。 未知の航海に出て行き、29万6千光年の距離を敵の攻撃をかいくぐって、わず か一年で戻ってくる事が、いかに困難であるかは、旅立つほうも、忍び寄る放射 能汚染におびえながら地上に残る方も解りきっていた。 どちらも共に生存の望みの薄い一年である。 真田は、見送りの人の中にリエの姿を見つけて唇を噛んだ。 いつだったか、「出航式に見送りに行き、志朗の軍服姿を見たいわ」と言って いたリエだったが、その頃は、医師として忙しく、来る事ができなかったのだ。 真田がクリニックに出向く時に軍服で行けばよかったのだろうが、なるべくな ら、ただの幼なじみとして存在していたかった真田は、軍服姿を見せないように さえしていた。 これが最後のチャンスだと思って来たのだろうか。車椅子で微笑んでいるリエ に、真田は列を離れて歩み寄った。 「リエ、もしも俺が遺体で地球に戻ってきたら…お前が俺を解剖するんだ。 お前には訓練学校時代から返しても返しきれない借りがある。せめて、俺の身体 を研究に役立ててくれ。もっとも、遺体になっても地球に帰ってこられるかどう か分からんがな…」 とたんにリエの目が厳しくなる。 「志朗の解剖なんて真っ平ゴメンよ!何バカな事を言っているのよ! あなたが帰ってこなければ、地球の復興はどうなると思っているの!? 私は『借り』だなんて思っていないわ。私だって、志朗のおかげで多くを学べた んだから!」 ものすごい勢いでまくし立てられて、真田は苦笑した。 「やっぱり怒ったか――。その通り。俺たちが帰ってこなければ、地球の未来は 無い―――。 では、俺は必ず生きて帰ってくる。リエも、生きて待っていろ」 はっと見上げるリエの黒い髪に、真田は手を置いてひと撫ですると、微笑んで 敬礼の姿勢を取った。 たちまち目の潤むリエを残して、パレードに戻る。 痛さも苦しさも言いはしなかったが、もう歩けないほど病魔に冒されていること を知って、真田の心はギリギリと痛みを訴えた。 知人を失う苦しみは、決して慣れることのない痛みを伴って真田を襲う。四肢を もぎ取られる以上の、いっそ意識を消したいと願うほどの大きな喪失感。 鋭く砥ぎ澄まされた死神の鎌は、今、冷たい輝きを放ちながらリエの喉元に当 てがわれ、ゆっくり引かれようとしているのか。 非科学的な事は認めないのが真田の信条だったが、もし、本当に神がいるのな らと、思わずにはいられなかった。 ヒゼキヤ王(*)のように、涙をもって神に命乞いすれば、リエの命は助かる だろうか。 いや、本当に神がいたとしても、普段の信仰心などひとかけらも無いくせに突然 祈ったところで、神は聞いてはくれぬだろう。 口元をゆがめて自嘲した真田は、拳が白くなるほど強く握りしめ、ヤマトに乗り 込んだ。 待っていろ。俺が戻るまで、必ず生きて待っていろ。 ただそれだけを強く願って。 當時ヒゼキヤ病みて死なんとせしことあり アモツの子 預言者イザヤ 彼の許 にいたりて之にいひけるは エホバかく言給ふ 汝家の人に遺命をなせ 汝は死なん 生くることを得じと… (略)…汝の父ダビデの神エホバかく言ふ 我汝の祈祷を聴けり 汝の涙を看たり 然ば汝を 癒すべし |
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