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部下がタランに届けたのは、廃棄物処理施設長からの「予定時間を 過ぎたのに使節がまだ来ない」という報告だった。 施設までそう遠い距離ではない。間違いなく定時に、アネッサはパレス を出発している。 「車を用意しろ! すぐに出発できるようにエンジンもかけた状態で 待機!」連絡してきた部下に、すぐさま命令をすると、タランはデスラーの 元へ走った。 ドアをノックし、返事を待つ間のもどかしい事。 しかしデスラーは、タランの顔を見るなり「アネッサに何かあったのか」と 立ち上がった。 「まだ施設に着いていないと連絡がありました」 タランの刺すような眼差しを見れば、彼がひとりででも行こうという 決意を持っていることがわかる。城にアネッサを迎えて以来、タランは 陰になり、日向になり、アネッサを支えてきた。それに応えるように、 アネッサもタランを頼り、右腕と呼ばれるほどになってきたのだ。 デスラーは、その肩に手を置くと、「私も行く」とホルスターを腰に装着 し、ふたりで廊下を駆けた。 「エアカーの追尾システムによれば、すでに到着しているはずです」 走りながら、タランは状況を説明する。 「あの施設は、ガルマン人が管理運営していたな」「はい。これまで 怪しいと思われる報告は一度も入っておりません」「…………」 エアカーを出発させると、シートで腕組みをして、デスラーはくぐもった 声で言った。「軍警察を施設の外へ待機させておけ――」 「しゃ、社長! デスラー総統閣下が、もう間もなくここへお出ましになる と連絡がありました。ど、どう対応したらよろしいでしょう」 不幸な事務長が、部屋に飛び込んできて、アネッサに銃を向ける社長 を見て驚いた。 「社長…?」 猿轡を噛まされ、 手首も足首も縛られて、アネッサは声を出す事もでき なかったが、撃たれてスローモーションのように倒れてゆく男から、目を 離せなかった。「んー!!っ」「社長! どうするんですか!? もう総統が来て しまいます!」 額に汗を浮かべ、工場長はおろおろと窓の外を見る。 「女を見張っていろ。私がごまかして来る」社長は銃を渡し、出迎えの ために出て行った。 閣下がおいでになる。私のために直々においでになる――。それは 嬉しい思いとともに、危険な場所へ乗り込ませることになってしまったと いう後悔の気持ちでもあった。 エアカーを跪いて迎えた社長は顔を上げて、デスラーとタランの 形相 の恐ろしさにすくみあがった。報道されているデスラーの整った顔に 違いは無いが、身体中から立ち昇る青白い怒りが目に見えるようで、 その中に自分が呑み込まれそうな気がしたからだ。 ガミラスという遠い祖先で繋がっていた民族が、ボラーに占領され、 隷属の辱めを 受けていたガルマンを解き放った、と報じられて沸いた のは、つい先日のような気がする。ガルマン人には馴染みのない、デ スラー総統という人物は、軍神であり、不死鳥だとガミラス人は口を そろえて言っていた。暗い歴史と、長く激しい戦闘を生き抜き、人民を 束ねて新天地へと導いたのだ。幾度も死線を越え、蘇ってきた男の 殺気は、一介の平民に理解できるものではない。社長は、凍りつきそ うになる自分の心臓を暖めるように、胸に手を置いていた。 「私の使いの者が、まだ到着していないそうだが…」 低いが、綺麗に通る声だった。 「はい。私も、先ほどよりお待ち申し上げておりますが、そのような女性 は、まだいらしておりません……」 社長がまだ話し終えないうちに、デスラーの横に控えていたタランが、 社長に踊りかかり、いきなり腹をえぐるように思い切り蹴った。吹き飛ば された社長を更に追って、二度三度蹴り続けた後、 嘔吐物で汚れた 顔を上げさせ、その喉首を黙って右手で締め上げる。 「ぐっ…な、何を…」蒼白になり震える社長に、タランは無表情のまま 「なぜ使いの者が女性だと知っているのだ。彼女を何処へやった…」 と、ギリギリ締め続けながら言った。 「殺すなよ。タラン…」デスラーの一言で、タランは社長を大地に叩き つけるように解放した。咽せ、咳き込み、 激しく喘ぎながら、社長は 涙を流している。しかし、アネッサの居場所を言おうとはしなかった。 「言わぬのか…」デスラーは指で合図を送り、外で待機している警察へ 社長の身柄を引き渡した。「ならば探すまで…」敷地内の建物を見回し て、デスラーはタランに「二手に分かれて……」と言いかけたのを タランが遮った。 「総統、アネッサ殿もイスカンダルの血を引く方。もしや思念が届くかも しれません」社長の胸ポケットから抜き取ったチーフで手を拭いながら、 タランは、油断無く周囲に目を配っている。 「なるほど」デスラーは目を閉じる。 ガミラスとイスカンダルは双子星で、イスカンダル人には特殊な能力 があった。それは、強い思念を形にして感じる事が出来るというもので、 混血であるデスラーにもわずかながらその力は宿っていた。女性の 方が能力に長けているとはいえ、アネッサの中に流れるイスカンダルの 血は、デスラーほど濃くない。 しかし――、デスラーは不敵に笑って、タランを振り返り、 「行くぞ」と告げた。 |
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