翼拡げて


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 乗り付けたエアカーを、社長と工場長が出迎えた。
「ようこそ、当地へ。デスラー総統から、おいでになることはうかがって
おりました」
アネッサに向かって、丁寧に礼をすると、「それではご案内いたします」
と、管理棟へ通された。
 広い敷地の中には、管理棟の他にいくつかの建物が並んでいる。
門をくぐったアネッサは、それらをぐるりと見回した。
清潔で、静か――。不穏ふおんなものは感じない。
 管理棟で作業の工程を説明してもらい、「それでは、作業施設を見学
させてください」と立ち上がったアネッサは、
「いいえ。安全第一に作業してはおりますが、 やはり危険をともなう作業で
ございます。デスラー総統のお名前を受けていらっしゃった方を、
そのような場所に、お連れすることはできません」と、困った顔で社長に
制された。
「ただ今映像でご覧いただいたままでございますし、わざわざお行きに
なられましても、よく分からないかと存じます」工場長からも、丁重に
断られる。
 けれどもアネッサはイスから立ち上がると、「総統閣下に報告する
義務があるのです。危ない事はいたしませんからご案内ください」と、
もうドアを開けて歩き始めてしまった。
「しかし!」「お待ちを!!」二人は追いかけてくるが、デスラーのもとで
鍛えられた足は速い。管理棟を出て、作業棟はあれに違いないと目星を
付け、すたすたと近づいたその時、突然どくんと、アネッサの心臓が
脈打った。
「!」
眩暈めまいがして足元がふらついたので、 後から追いついた二人が慌てて
支える。
「ご気分でも悪いのですか?」
社長にそう言われたが、いいえと首を振って、アネッサは目を閉じた。
 あわあわと湧き出し、浮かび上がる画像がある―――。
これは……ボラー本星だ。
なぜ突然に、そんなイメージを感じたのだろう。静かに自分の内へ問い
かける。
目を開け、もう一度敷地内を見回した。
イメージは、一番外側の建物から送られて来ているような気がする。
先ほどまでおぼろだったボラー本星の影は、 今やアネッサの頭の中で完全
に形となり、くっきりとその存在を主張している。
「あの建物はなんですか?」
指差されたほうを見て、社長は「従業員の寮です」と答えた。
工場長の説明によれば、止まることなく交代制で稼動しているので、
寮には住み込みの従業員もいれば、仮眠中で一時的に利用している従
業員もいるということことだった。
「そう……。では、そこも見せてください」
目的の方向を変えて、アネッサはますます速く歩いてゆく。
「困ります!」工場長が、取りすがるようにアネッサを捕まえた。
「―――あの建物に、ボラーの人がいるのでしょう?」
冷たい視線を投げかけると、ふたりはぎょっとして立ちすくむ。
(やはり、間違いない――)
アネッサは工場長を振り払い、走るように建物に向かって行ったが、
社長がタックルをかけてきた。
寸余すんよにかわし、 よろめいた相手のうなじに手刀を食らわして倒しこむ。
 アネッサは、由緒正しき貴族の娘であり、己の身を守る程度の武芸
一般は、兄から教わり、身に着けている。 有事ゆうじの際には、女とて戦いに
出向き、微力ながらにも、デスラー一族をお助けできるように――。
それは、たとえ遠くても、血縁関係にある貴族の家にとっては、当たり前
しつけなのだ。
 たかが女ひとりと、あなどっていた2人を扱うのは、 さほど難しくなかった。
掴みかかってきた工場長の右手首を掴み返してひねり上げ、 親指を握る
と、わき腹を蹴り込んだ。
苦悶して、のたうつ2人を振り返りもせず、寮の扉にたどり着いてみれ
ば、異臭が鼻を付き、小さな窓のむこうに、一目で奴隷とわかるような
男たちが、大勢監禁されているのが見える。
(捕虜を、返還しなかったのね…)
 全てが理解できたと思ったとたん、アネッサは左腕に熱を感じ、撃た
れていた。

 管理棟に連れ戻され、更に奥まった部屋のイスに縛られ、どのくらい
意識を失っていただろうか。社長と工場長が言い争いをしている声で、
気が付いた。
「社長、まずいですって! この女がここへ来ていることは、あの総統が
知っているんですよ! 絶対に捜索されるでしょう!?」
イライラと部屋を回りながら、工場長は喚いている。
「エアカーはもう隠した。ここへ来なかった事にすればいい。途中で
事故があって、死んだって事にすればいいんだよ」
落ち着き無く窓の外を眺めて、社長は髪をガジガジと掻いた。
「追求されますよ! 総統に選出された時、デスラーはボラーの捕虜を
人道的配慮にのっとって、返還すると宣言したんじゃありませんか。
それを無視して、今現在もこき使っていると知れたら……」
ああ、とまたうめいてうなだれる。
 アネッサの思ったとおりだったのだ。危険な作業に高額の給金を支
払うよりは、奴隷として捕虜を使ったほうが絶対にいいに決まっている。
「ガルマン人だって、ボラーでは長い間、奴隷のような扱いを受けていた
んだ。俺たちが、ボラー人をタダ働きさせることが、そんなにいけない
ことなのか?」
社長はそう言い捨てると立ち上がり、アネッサを見下ろして「こいつを
始末しないとな…」と、銃を取り出した。
 
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