翼拡げて


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「アネッサ。君はやはり兄上と似ているね」
デスラーの言葉は意外だった。
「ドメルも、恐れることなく私に進言した。いつでもガミラスのためにね」
キッと、デスラーの目を睨むように強い口調でアネッサは言った。
「兄の進言は、間違っておりましたか?」
口の端の一方をゆがめたように笑うデスラーは、優しそうにさえ見える。
「…いや。正論だったよ」
神々こうごうしいと思ってしまった。 この人から出るオーラは気高く、ものすごく
大きい。アネッサは膝を折り、頭を深く下げて
「でしたら、どうか私の言葉をもお聞きくださいますように」
と、震えるように訴えた。
「時間配分を見直すことにしよう。しかし、これから向かう予定の工場は、
大気の状態を監視する重要な役割があるだけに、はずすわけには
いかない」
再び、マントをひるがえそうとする そのすそを、 アネッサは捉えた。
「私が代わりに参ります。全権大使をお任じ下さいませ。そして、どうか、
閣下はお休みを。私の願いを叶えてくださるお約束です」
デスラーは驚いて、裾を握るアネッサを見た。
 「全権大使を愚弄ぐろうするような事があれば、閣下は そののち、厳罰をも
って臨まれればよろしいではありませんか」
見上げるアネッサの強い瞳の光は、ドメルの鋭い眼光を思い起こさせ
る。ドメルもまた、オーラを持った武将だった。この娘は、女でありなが
ら、ドメルと同じものを持っている。
 デスラーは思う。それもまた、遠きイスカンダルの血なのかもしれない。
だとしたら、女性が強くて当たり前だ。
 「…よかろう。たった今、君を全権大使に任ずる。用意してある専用機
を使うが良い。先方には私自らがその旨を通信しておく。わが身が足を
運ぶより容易たやすい事だ」
アネッサの手を取り、立ち上がらせると、 えり徽章きしょうをはずして 付けて
やった。
「案ずるな。危険はない。作業が滞りなく進んでいるかどうか、作業員
たちに不穏ふおんな動きがないかどうかだけ 見てきてくれればよい」
思いがけぬ優しい言葉に、胸が詰まるようだった。
「少しでも睡眠をお取りになると、お約束くださいませ」すがるような
アネッサの目線を、避けるように目を伏せ、
「私はパレスに戻る予定の時間まで自由になれる。久しぶりに長い昼寝
をさせてもらおう。約束は守る」と、デスラーは言った。
「くつろいだお姿でお休みください。詰襟つめえりの ままでは熟睡できぬと存じ
ます」
駄目押しだった。本当なら寝所へ付き添い、寝息を立てるデスラーを
確認してから出発したいくらいだったのだ。
くっくっ。と、低くデスラーが笑う。
「母のようだな。いや、母の事はあまり覚えていないが…」
はっと、アネッサが目を上げた。
「出過ぎた事まで申しました」
「いいのだ。心からの進言、感謝している。それでは行ってくれたまえ」
デスラーは今来た方向へ戻って行く。
感謝している。感謝……
去って行く靴音を聞きながら、アネッサの胸の中に、その言葉が何度も
繰り返された。

 それ以後、アネッサは何度か大使として視察を行なった。
その多くは、丁重ていちょうなもてなしをもって 迎えてくれたが、デスラー本人
ではない上に、身分も無き女だとあなどった 施設や領地には、デスラーの
容赦ない鉄槌てっついが下され、 粛清しゅくせいと共に見直しが行われた。
 タランは、彼女の真剣さと誠実さを認め、城内のしきたりや、人間
関係を教える一方で、自分の仕事のいくつかを任せるようになった。
アネッサは信頼を裏切ることなく、デスラーとタランの間で、仕事も、
ガルマンに関する知識も、熱心に覚えていった。 真綿まわたが水を吸収する
ようなアネッサの学習ぶりにデスラーとタランは驚いた。しかも、アネッ
サが加わった事で、時間に余裕の出来たタランは、存分に働く事が
出来たのだ。
 時間の許す限り辺境の各地を巡って、その土地の有力者の中から信
頼できる人間を選出したタランは、デスラーに目通りをさせた。
 その意にかなった者は、デスラーに代わってその領地を治めたので、
デスラーの仕事も格段に減り、本来の総統としての役割が行ないやす
くなっていったのだった。
 いつしかアネッサは、有能な右腕として用いられるようになっていた。

 アネッサは星の復興を目の当たりにして、デスラーというシンボルを
得た、この星の人民達に感嘆していた。
それほどの偉大なる覇者はしゃなのだ。
誰もが、無条件にその前にひれ伏すほどの――。

 そんなある日、アネッサは郊外の廃棄物処理施設を訪れた。
 
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