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走れども疲れず 歩めども倦まざるべし 【イザヤ書 40章31節】 「ねえ、お兄さま。デスラー様ってどんなお方なの?」 「アネッサ。その名を軽々しく口にしてはいけない。 あの方はいと高き方。まことにガミラスと、その人民を想う、大いなる 神なのだ。お会いすれば、その偉大さに打たれるだろう」 ヤマト討伐を正式に任じられた日、自宅へ戻った兄はそう言っていた。 兄は両親の自慢の大切な存在だった。 いつも物静かで、自宅にいるときは本ばかり読んでいたが、妹から見 ても雄々しくて、しかも優しい兄は、アネッサに多くの話を聞かせて くれたものだ。 「私の胸にある数々の勲章は、我が武勇の証として誇らしいのでは ない。あのお方のお側近くに仕え、あのお方のお役に立てた事が誇らし いのだ」 一番新しい勲章を私に見せ、兄は旅立っていった。 けれども。 デスラーが神だというのなら、何故ガミラスは、ヤマトに敗北したのか。 何故兄は、死ななくてはならなかったのか。 私は知りたかった。 デスラーという、宇宙に君臨する者の、本当の姿を――――。 執務というには、あまりにも激務だった。 デスラーはまさに“寝る間も惜しんで”全力で、ガルマン=ガミラス帝国 を指揮しているのだ。 常に大股で、指示を出しながら歩くデスラーの後ろを、顔色も変えずに タランが行く。そして、その後ろに、今までの人生でこれほど速く歩いた 事はないだろうと思われるアネッサが、急ぎ、続く。 人民からガルマン=ガミラスの総統に選ばれ、就任したデスラーが、 都市の復興だけでなく、芸術や文化の再興にも力を入れているのを見 れば、長く新天地を求めていたデスラーにとって、この星がどれほど 重要で、大切に想っているかがわかる。 ただ、新体制になり、この星に根付こうとしても、信頼に足る人材が 少なすぎた。 軍事だけでなく、政治にも手腕を振るうデスラーは、アネッサの想像を 超えてはいたが、常に神経を張り詰め、諍いが あると聞けば自らが 足を運ぶことも多く、そうして着実に治めてゆく姿に感動した。 「視察」と称して工場や基地を見回り、訓練場で銃や格闘の訓練まで しているデスラーには、ほんのわずかな休息の時間しかない。 それさえも、書類に目を通し、あちこちへ連絡を入れるような毎日 なのだ。 「こんなのは、休息とは言えません。ゆっくりお休みにならないと、身が もちませんわ」 アネッサは早足でデスラーを追いながら、後ろから何度も言った。 「ゆっくり休める星にするまでは、安眠などできんよ」 「………」それはそうかもしれない。だが、これだけ一緒に行動してみる と、いかにデスラーの体力に自信があろうとも、いつまでも続くとは思え なかった。どこかでほころび、ミスが出るのではないか。 やはり、黙ってはいられなかった。 「もし、閣下がお倒れにでもなったら、それこそ星はどうなりますか!? 誰に任せられるおつもりですか!!」 デスラーの足が止まった。 「…タランがいる…」 時としてデスラーは、自分が死ぬ事を望んでいるのではないかと、 アネッサは思うことがある。 今までに受けた心の傷は、アネッサなどには理解できぬほど大きいよ うな気がするのだ。 デスラーの口は重く、自分の気持ちを言葉にすることなど無い。けれ ども、アネッサは思う。 激しい戦いの中で、重臣を失い、故郷とその双子星も失った。失意の 底にあったであろうその時でさえ、デスラーの胸には、ガミラス民族の 強い期待が抱かれていた。 ガミラス本星をなくした、寄る辺無き 流浪の民たちは、すべての夢と、 生きる望みと、命をデスラーに預けていたのだ。 「ただ信じていれば、救われる」と信仰にも近いその意識は、長い歴史 の中で培われた強いもので、 逃げることの許されない統率者の、 抱え、守ってきたものは、重く、苦しい。 その使命を果たし、永住の地を見つけた今、もう自分の役割を終え たいと願っているのではないか。 あるいは、自分の存在意義を見失いかけているのではないか―――。 ちりちりと胸の焼けるような焦りがアネッサを襲う。 この方ほど、星にとって大切な存在はないというのに――。 「いいえ! 将軍は確かにすぐれた武将ですが、統率者に必要なカリ スマはありません。執務を代行できるのはほんのしばらくで、その後、 ようやく復興してきたこの星は、再び荒れ果てるでしょう。閣下には、 ゆっくりと養生できるような時間のゆとりはございません。ですから、 日々、ほどよくお休みにならないと、取り返しのつかない事になるやも しれません!」 アネッサは一気にまくし立てた。聞いてくれる気持ちがあるうちに、 話してしまわないと、耳も貸さないのが常だったから。 |
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