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広いベッドの中央でアネッサは目覚め、そこがデスラーの寝所だと 気が付いて、慄き、飛び起きた。 「気分はどうだ?」 ベッドの脇に置かれた肘掛け椅子で、デスラーが頬杖 をつきながらこ ちらを見ている。 「あのっ…」布団の中で着衣の乱れをすばやく直し、ベッドから降りよう と靴を探したが、そうする間にデスラーはゆっくりと近づいてきて アネッサの肩に手をかけ「まだ寝ていた方が良い」と言った。 「君はバカかね? あれほど私の身を案じながら、自分が疲れているこ とに気が付かなかったのか。心身衰弱などと医者に言われて、私は唖 然としたよ」 生活のほとんどをデスラーと共にし、あるいは視察や検査の立会いに 出向いていたアネッサは、食事も睡眠も満足に摂っていなかったのだ。 同じ時間しか眠っていないデスラーと比べれば、体力のないアネッサ が参ってしまうのは無理からぬことだった。 「申し訳ございません…」 身を縮め、か細い声でアネッサが答えると、デスラーは盛大にため息を ついた。 「あの…閣下。午後のご予定は? ……大臣方との 折衝は…」 恐る恐る尋ねると、デスラーはアネッサを睨むように見据えて 「すべてキャンセルした。今日は君の監視をせねばならん」と言う。 まるで獅子の前の小兎のようにますます小さくなりながら、それでも アネッサは 「私はもう大丈夫です。このまま実家へ戻り、大人しくしておりますゆえ、 お案じくださる必要はございません。どうぞ、政にお戻りくださいませ」 と願った。 見下ろしていたデスラーの眉がふるふると震え、垂れ込めた雪雲を呼 ぶ、雷のような 低い声が轟いた。 「君はまだわかっておらぬのか。君は我が妻となり、大ガミラスの母と なるのだ。城から下がらせるつもりはない!」 アネッサは飛び上がるようにびくっとひとつ震え、 剥いでいた布団の 中に逃げ込みたくなった。 「わ、私などでは務まりませぬ」 とたんに、デスラーの腕が伸びて、捉えられる。 「務まる、務まらないなどどうでもよい。君は私の妻となる事が嫌な のか?」 妻となる―――。 この偉大なる人に愛されて、妻となる事を拒む女性がいるのだろうか。 星の全てを愛する人が、特別にたったひとりの女性を妻とするのだ。 その光栄さを思うだけで、眩暈がしそうだった。 ああ、そうだ。いつからか私は閣下を愛していたのだ。 己が身を打ち据えるように働き、 死んでいった者を憂え、苦渋の過去 へ引きずりこまれそうになりながらも、その足跡を星に残し続けよう とする人。 それだから、私はこんなにも苦しかったのだ。 愛してしまったから。 次元の違う、手の届かない人を愛してしまったから。 その私に、妻になれと言ってくださっている… 「…答えよ。君は私をどう思っているのかね」 アネッサは静かに涙が流れるままに任せ、姿勢を正すと、真っ直ぐに デスラーを見て、 「…お慕いいたしております…」と言った。 その言葉はやはり震えてはいたが、デスラーは満足そうに微笑むと 悠然とアネッサを抱きしめた。 「君はもう私の右腕ではない。こんなにも愛せる人に出会えるとは、 かつて思わなかった」 あのイスカンダルの女王の事を言っているのだと、その胸の中でア ネッサは思う。ガミラス皇室は代々イスカンダル王室から 妻を娶って おり、本来なら女王か、その妹がデスラーの妻となるはずであった。 だが、妹姫は亡くなり、姉姫は地球人を愛し、デスラー本人の目前で イスカンダルごと、その命を散らせたのだ。スターシャというその女王 を、デスラーが深く想っていた事は、ガルマン=ガミラスの蒼き星に、 その名を付けたことからも容易に想像できた。 心の傷はいかばかりだったろうか。求めるものはみな手に入れてい たデスラーが、地球軍に敗れ、白色彗星で 辱めを受け、支えとしてい たスターシャの心を掴む事はできなかったばかりか、 “第二の故郷。 我が血の源”と想いを寄せていた イスカンダル星までも失ったのだ。 おずおずと、デスラーの背中に腕を回した。 私でいいのだろうかという不安は消えはしないが、愛してくれるという 言葉を信じるなら、その心の傷は癒えてゆくに違いない。 ―――兄とは違う匂いがする。 がっしりとした、頼りがいのある体躯に身を任せて、アネッサは兄を 想った。 大ガミラスの母となる――。 兄は喜んでくれるだろうか。と。 |
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