玉響タイトル

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勿忘草
written by ポトス


 「ですから、ご要望通りに建造することは可能ですっ。つまり、それは技術的な問題で
はないと、何度も申し上げたはずですが!?」
 真田は苛々とした様子で、モニタに向かっていた。常に冷静さを失わない真田が、い
つもは無表情とも言われるその態度を崩していることは珍しい。相手は、地球防衛軍司
令本部の将校だった。
 
 ヤマトがイスカンダルから帰還し、ほぼ4か月。
放射能除去があらかた終了すると、人々は地上を目指した。環境的にはまだ完全とは言
い難く、あちこち建設途上ではあったが、ぞくぞくと地上への移動を始めている。何年も
地下都市での生活を強いられた彼らが、一刻も早くと焦がれるような思いで、蒼い空を、
緑なす大地を求めるのは無理からぬ話である。

 この時期、地球防衛軍科学局局長の真田は、非常に多忙であった。“寝るヒマもない”
というのが、比喩でも何でもないほどに。
だが、真田のこの態度は、多忙さに由来しているわけではない。
ゆっくり休みたいと、せめて自宅のベッドで眠りたいと思わないわけではないが、真田の
激務は今に始まったことではない。ましてや、“あと×か月だ”という切羽詰まった状況
が緩んだだけでも、気持ちの上では余裕があった。
 苛々の原因は、司令本部との意見の相違。
つまり、差し当たっての案件で最も具体的に言ってしまえば、戦艦アンドロメダ等の新造
艦建造に際する方向性の相違である。

 ヤマトを降りた乗組員たちが、その実績に比べ冷淡とも言える処遇を受ける中、真田
が科学局の局長という地位を得たのには、いくつか理由がある。
まず、現在の地球に真田にとって代われるだけの頭脳を持ち、経験を重ねた者が存在し
なかったこと。科学局は軍でありながら、軍そのものではなく、従って軍の中枢とは少し
ばかり立場が異なること。そして何よりも、戦後の復興における明確な青写真を持ち、そ
れを実現でき得るネットワークを、すでにその手に握っていたことが大きい。

ヤマトがイスカンダルから帰還したこの時に、戦後の青写真を持っている者は少なかっ
た。とにかく生き延びることに必死で、“滅亡”と戦うだけの日々において“その後”
を考えることは難しい。
だが、地球脱出までをも考慮に入れ計画・実行していた真田にとって、それは当然であ
り、必然であった。イスカンダルに出発する前からの同志として連絡をとっていた、中央
図書館館長の宇津木うつぎに、そのネットワーク作りを託し旅立ち、 多忙な旅路の中ではその
検討を重ねた。そして、地球帰還とともにただちに宇津木と連絡を取り合い、そのネット
ワークを手中に納めたのである。

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 モニタのスイッチを切った真田は、さも苛々とした様子で大きな息をひとつ吐き出すと、
机上の時計に目をやった。今夜も自宅(といっても官舎だが)に帰れそうにはない。
「少しごゆっくりと晩ご飯でも召し上がって来ては、いかがですか?」
苛々の原因を理解する、イスカンダルへの旅もともにした部下が、苦笑するようにそう
言った。真田は、そうだな、そうするか、と今度は小さく息を吐いた。

 局長室を後にした真田は局内の食堂へ足を向けたが、ふと気が変わった。
こんな時は外の空気を吸って、気分転換でもしてこよう。多少時間は余分にかかるが、
苛々した上官と仕事をするよりは、部下たちも気が楽だろうとも思い。
真田は、踵を返すと部屋へ戻り、軍服を脱いでジャケットを羽織った。少し出て来るぞと
部下に言い残し、部屋を出た。

  エレベータホールで腕を組みながら、真田は眉間に皺を寄せる。
ガミラスの圧倒的な科学力の前に、滅亡寸前まで、それこそあと一歩というところまで
追いつめられた地球人にとって、それを覆し、その危機から救ってくれたのは「ヤマト」
なのだ。
だが、防衛軍上層部にとって、生き延び、その未来を手にした現在、それを認めること
は自分たちの無能を認めることに等しい。
彼らは帰還したヤマト乗組員たちをねぎら いこそすれ、冷遇し、さらに“ガミラスを打ち破っ
たのは、イスカンダルの科学である”と思い込むことにしたらしい。

真田は、投げやりに苦い笑いを浮かべた。
軍人ではあるが、科学者でもある真田は、四肢と姉を失ったその時から、科学を征服し
ようと心に誓い、それに挑み戦い続けてきた。そして何年もの間、ガミラスの圧倒的な
科学の前に晒され続けてきたのだ。科学の何たるかを、よく知っていた。
 科学とは、一般的に、“何かをできるようにする”ものであると思われているが、むしろ
“何かができない”という側面を明確にするものだ。
 ガミラスの崩壊をその目で見た真田は、どんなにイスカンダル科学が優れていようと
も、科学の力だけでは決して及ばないものがあるということを、また、身に沁みて知って
いた。

 だから、その科学力だけに頼ろうとする新造艦の建造に、強固に反対し続けているの
である。
地球防衛軍長官である藤堂は真田の言に耳を傾け、その意見を尊重した。
だが、上層部ではそれさえも己の地位を鑑み、快く思わない者が多数を占める。真田を
尊敬し、それに従おうとする現場の人間は多かったが、懸案を決定する上層部において、
孤軍奮闘ともいえる真田に勝機はなかなか掴めなかった。

 「あんたたちは、地球を滅亡させたいのかっ!?」
と、一度、思い切りそう怒鳴りつけてやることができたなら、どんなにかすっきりすること
だろうと、ついつい愚痴めいたことまで考えたくなるのだった。

 やってきたエレベータに乗り込み、地上へと降り立つ。相変わらず眉間に皺をよせ、
ムッとした顔つきで大股に歩いている。それを見た者が、そそくさと横へとんで逃げてい
ることにも気が付いてはいないのだろう。
冷静な真田に、そんなことは滅多にあることではないが、いつまでも続く“暖簾に腕推し”
の状態と睡眠不足に過労が加わり、いい加減我慢も限界といったところだった。

 そうして科学局を出た真田が、敷地の隣接する中央図書館の門を通りかかったとき、
その名を呼ばれ、驚いたように顔を向けた。
真田をファーストネームで呼ぶ者は多くない。
「――柚香」
「随分大っきなドーベルマンがやってくるなぁ、と思ったわ?」
そう言って、くすりと笑うほどには付き合いも短くはない友人がそこに立っていた。

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